今の努力が、新たな知の扉を開く——立教大学×高志高等学校

立教大学特別授業

2024/12/20

研究活動と教授陣

OVERVIEW

9月10日、福井県立高志高等学校において「観光」をテーマにした立教大学の特別授業が開催されました。当日は1年生約100名が、授業を担当した西川先生の話に熱心に耳を傾け、講義終了後も多くの質問が寄せられました。

観光学部特別授業
西川 亮 准教授

都市工学が専門で、地域をベースとした観光研究、観光地に関わる歴史研究に取り組む。研究においては、観光地が抱える課題に加え、歴史から得た知見を次の時代へと生かす視点を大事にしている。

大学では、正解のない問いに挑み、新しい知をつくる

みなさん、「大学とは何か」について考えたことはありますか。ちょっと想像してみてください。私たちの生活はどうやって成り立っているのでしょうか。それはさまざまな知識のおかげです。人類の先人たちが築き上げてきた知見の蓄積の上に、現在の私たちは生きています。例えば、普段使っている教科書は、過去の誰かが発見し、蓄積してきた「知」を学ぶことができる重要なツールです。また、この知は、人類が存在し続ける限り、新しい知を生み出し、更新していくことが必要になります。

そして、人類が蓄積してきた知の体系をベースに、新しい知をプラスしていくのが大学や大学院での研究になります。研究で根本的に大切になるのが、根拠を持つことです。思い込みではなく、誰もが理解できる論理的な根拠を身につけて、自分の意見を語る習慣をぜひ身につけてください。

また、大学ではみなさんに対する呼び名も変わります。高校では「生徒」と呼ばれていますが、大学では「学生」です。何が違うのかというと、生徒は誰かに教わる立場にありますが、学生は自律的に学ぶ姿勢が求められます。正解のある知を求めるのが高校であるのに対して、正解のない問いに向き合うのが大学です。

では、正解のない問いに挑み、新しい知を創るには何が必要なのでしょうか。それは、知識が増えることだけに満足せず、自分の問いを持ち、自分で問いの答えを見つけること、すなわち研究です。すぐに役立つ知恵を見つけるとか、お金を稼げるような仕組みをつくるといった研究も重要ですが、自分の関心があることについて調べてみるという姿勢も学問の世界では評価されるべきだと考えます。大学の学部や学科を選ぶ際に、自分が関心のあることに貪欲に取り組めるかという視点を持つことも大切ではないでしょうか。

1年生約100人が参加した特別授業の様子

しかし、自分の関心がどこにあるかを見つけることは、そう簡単ではありません。普段の生活の中で、常に探求心や好奇心を抱くような思考回路を持つと、関心のあるテーマが見つかりやすいと思います。テーマが見つかったら、それについて調べていく力が必要になります。他に論理力、発想力も大切ですが、本を読む、人に話を聞く、数字を使うといったさまざまなツールを使って調べ抜く根気強さが、研究では非常に重要です。100人中99人が途中であきらめてしまうからこそ、やり続けると誰もが生み出せなかった知見をつくれます。

私は新聞記事を50年分読み、地方都市の観光に関するデータを分析しました。そこまでやり続けられるのは、町を持続的に発展させていくには「観光」というツールが必要だと気づき、観光に関心を持っているからです。

観光とは、人が豊かに生きていくために必要不可欠なもの

立教大学の観光学部は日本で一番長い歴史をもつ学部です。そこで日々学生たちと研究に取り組んでいます。

観光は、毎日のように新しいニュースが配信される分野で、ここ福井でも北陸新幹線開業が大きな話題になりました。おそらくみなさんにとって観光というのは、地域を活性化させるために重要な手段であるとの認識が強いのではないかと思います。経済の視点で観光を捉えることは重要ですが、別の視点もぜひ加えてもらいたいと考えています。

ここで、1日の生活を想像してみてください。1日は24時間で、すべての人に平等に与えられています。勉強や睡眠、食事といった必須の時間以外は、自由に過ごすことができる「余暇」です。この余暇に注目するのが観光学ではないかと考えています。余暇は、人が生きていく上でなくてはならないものです。観光も余暇のひとつですが、ゲームなどと異なり必ず移動を伴います。この移動するという行為が、本人にとってどんな価値があるのかを考えると、観光の捉え方がもっと多様化するはずです。

先日、モンゴルに行った際、一緒になった女性たちが幻想的な景色を見て感動し、涙を流していました。その様子を見て、観光はこのような素晴らしい体験をもたらすのだと、私も感激しました。また、現地の人との交流も観光の大きな魅力です。

当日展開された資料。幅広い学問によって構築されている観光学

このように、経済的な利益だけではなく、観光客本人が得られる価値や観光客が訪れる地域に居住する住民の生活への影響、地域固有の価値の保全など、観光の持つさまざまな側面を考える学問が観光学です。そのため、観光学は、経済学だけでなく、文化人類学や社会学、地理学といった幅広い学問によって構築されているのです。

AI(人工知能)の発展で、パソコンに聞けばいろいろな答えがすぐに導ける便利な世の中になりました。だからこそ、答えのないテーマを自分の頭で粘り強く考える研究の価値が増しているように思います。私自身、大学卒業後に企業で働きましたが、自分がやりたいことを自分の力で調べたいという夢をあきらめきれず、観光学の研究者になりました。みなさんも、これから大学受験などさまざまな壁にぶつかると思いますが、必ず乗り越えられます。今の高校での学びを大切にして、上限を決めずに毎日努力を続けてください。その先に、自分が本当にやりたいことが見つかり、新しい世界への扉が開くはずです。

Student’s Voices 高志高校生に聞きました

観光や余暇が、労働や勉学に影響を与えていることに驚きました。また、余暇や観光は文化などさまざまな力を得ることができると知ったのでもっと調べてみたいと思いました。これからも向上心を持って貪欲に学び続けたいです。

観光学とは、有名な観光先や旅行プランを考えたりすることだと思っていましたが、それだけでなくビジネスの面や文化、地域社会など社会に関する多くのことを学べると知りました。視野を広くしていきたいと思います。

私の住んでいるあわら市は、温泉で観光を盛り上げています。そのため、観光業の話は大変面白かったです。観光学部は今後視野に入れていこうと思います。今日聞いた話を頭に置きながら、大学生活を楽しみにしようと思いました。

「論理的に理解できる根拠を持って語ることが大事」という言葉がとても大切だなと思いました。自己主張をするのではなく、何か根拠を持って語ることが議論の場でも、人としても大切なことだと思いました。

将来の夢に向かって、しっかりとした自分の意見や根拠を持ち数々の問題に立ち向かい解決していきたいと思いました。便利なAI やスマホにばかり頼らず自分の頭で粘り強く考える習慣を大事にし、向上心をもって学び続けたいです。

「将来を決める出来事にいつ出会うかわからない。いつかくるそのきっかけのために努力を続けよう」という言葉が印象に残りました。今の夢は明確に決まっていないので、日々努力を重ね自分にあった将来の夢と出会いたいです。

※本記事は『福井新聞』(2024年10月26日掲載)をもとに再構成したものです。
※記事の内容は取材時点のものであり、最新の情報とは異なる場合がありますのでご注意ください。

CATEGORY

このカテゴリの他の記事を見る

研究活動と教授陣

2024/12/19

教員の「働き方」をめぐる問題

学校?社会教育講座教職課程 下地 秀樹教授

お使いのブラウザ「Internet Explorer」は閲覧推奨環境ではありません。
ウェブサイトが正しく表示されない、動作しない等の現象が起こる場合がありますのであらかじめご了承ください。
ChromeまたはEdgeブラウザのご利用をおすすめいたします。